親指君

田舎暮らしを始め、素足で過ごすことが多くなった。靴下なんか冬場の寒い時くらいしかはかない。足といえば、私の靴のサイズは28cmと少しばかりでかい。したがって、靴を買う時は大変苦労する。農作業用を含め靴屋に揃えてあるのはたいてい27cmまでである。もっとも、若者向けの店にいけば、ないこともないが、3日も履けばよれよれになるような、きゃしゃなものや、原色の色のものであり、どこから見ても中・高生向け。さすがに四捨五入すれば還暦が視野に入った身には、どうかとはばかれる。

 

小学生のころ、クラスの友人にNという者がいた。塾通いの町の子であったNは、頭も良くスポーツも万能で、さらに細めの整った顔立ちと言うおまけまでついていた。野球(ソフトボール)でこそ、なんとか競いあっていたが、勉強ではまったく歯が立たない私は、一矢を報いるべく、彼の弱点をひたすら探していた。ある日体育の着替えの時だったと思うが、彼の足を見てニヤリと思った私は意を決して彼に言った。「お前の足は変だ」「親指がへこんいる」と、自分の足を彼に見せびらかしながら続けた。「足はこう、斜めにきれいに揃っているものだろう」。Nを不意をつかれたのか「えっ」とだけ発して黙っていた。

 

やった、と思う反面、少し後ろめたいような、心の奥にひっかった思いの残る翌日のことである。Nは二人の町の男どもと私の前に現れた。「足がおかしいのはお前の方だ」と一斉に素足を見せつけられた。なんと、3名共同じ足の形をしており、親指が隣の人差し指(というのか知らないが)と同じか、やや短いではないか。 見事返り討ちにあってしまったのだ。それも3対1という統計学的実証データをそろえて反撃されたのであった。転んでもただでは起きない(と思っているだけだが)私は「これはいかん、もっと大量のデータを集めよう」と、遅ればせながらクラス中の足を調べることにした。最初に幼馴染の女子であるK子の足をじろじろ見ていたら、「エッチ」「すか~ん」と嫌われたのので、調べたのは結局男だけだった。

 

まことに驚いた。私の足と同じような、親指の長い者をクラスの中で見つけたのは、スポーツ音痴のTだけだった。完敗である。その日の夕方、しょぼくれている私を見た担任のW先生が「どうしたの?」「元気ないね」と声をかけてくれた。私は懺悔するかのように、事の一部始終を話した。W先生は「それはあなたがよくないね」「人の身体を比べてはいけません」、とくと諭されたのであった。私は無残にも、自分の浅はかな行いから、奈落の底に落ちたのであった。

 

放課後の日課となっていたソフト―ボールもせずに、帰宅した私は田んぼから帰ってお茶を飲んでいいた母親に向かって「かあちゃん、オレの足はおかしか」と訴えた。母は「はぁー」と言いながら、地下足袋を脱いで、「おかしかことはあるもんね」「ほら、母ちゃんと同じたい」。母の親指は私のよりさらに一回りでかく、丸々としていた。ぽーっと一筋の明かりが灯った。「お前は橋の下で拾われたと」と兄からけなされていた私は、確信をもった。「オレは間違いなくかあちゃんの子ばい」。

 

今あらためて親指の長さを測ってみると、隣の指(人差し指?)より1㎝程長い。つまりこの親指が隣の指と同じであれば、27cmとなり標準靴サイズの中に入っていることになる。また、足指で親指の長いのはエジプト型といって、なんと日本人の70~80%はこの型らしい。すると、小学校のころクラスの男どもを相手にした調査データはなんだったのだろうか?よくよく調べてみると、確かに親指の長い人が多いのは確からしいが、私の指ほど他の指との差はなく、私の調査が密かに行われたため早合点したらしい。

 

この年になって、些細な指先の話を思い出しているくらいだから、私も修行がたりない。同じようで結構違うのが人の身体というものだろう。親からもらったこの身体、まだまだ大事にしていきたい。 

 

 

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