「土の記」

高村薫の稲作農業を主題とした小説「土地の記」を読んだ。なんでも大佛次郎賞とかを受賞したとされる純文学作品である。新聞の書評欄で紹介され、たまたま図書館で見かけたので読んでみた。

 

久しぶりの純文学で、なかなか読むのに骨の折れる読み物だった。とにかく表現がくどいのである。「米作り」を中心とした田舎暮らし生活を描いているにだが、表現が妙に細かく、そして一つひとつがとにかく情がこもっているのである。成長過程の稲の葉数や分けつの株数を数えたり、カエルの鳴き声ひとつに敏感に反応する様は「この人ちょっと気が病んでいるかも?」と、読んでいて心配になったりもしてきた。

 

とはいえ、主人公の生い立ちと少々被って私は、なんとなく馴染みが出てきて最後まで読んでしまった。生まれは東京・国立市で、東京・青梅市とも縁があり、仕事は関西の電気関連工場に勤め、婿養子での奈良県の山村暮らしである。私も生まれこそ異なるが、国立市には長く住んでいたし、青梅市も仕事の関係があった。長く電気関連工場で働き、現在大分の山村で田舎暮らしをしている。

 

書評では「農業と人の営みを重層的かつ綿密に描く」とし、「人と稲壮大な宇宙誌」「集合的な物語、神話に」とべた褒め状態だったが、稲作6年の私には少々気になる点があった。以下若干”考察”してみた。

 

(1)「軽四輪」が頻繁に出てくる。物語をどこからどう読んでも「軽トラ」のことを指している。全国どこでも軽トラは軽トラと呼ばれているはず。農家必須の車、「軽トラ」は正しく呼んでもらいたい。”軽4輪”昔の免許証ではあるまいに。

 

(2)田んぼで中干し下時に「溝切り機」による作業が長く語られている。確かに中干し時に、水はけを良くするために、溝を切る人がいるにはいる。しかし、田んぼの中をくまなく溝切る人はいない。そんな暇はない。そんなことより大事な作業は「ヒエ取り」である。米作りで何が大変かと言えば、この田んぼの「草取り」である。除草剤をまったく使わない私は田植してから3~4回はある。まさに田んぼに這いつくばっての田の草取り、”稲作=ヒエ取り”と呼ばれるくらいであり、除草剤を使う人でも最低1回はやるものである。この主人公よほど強力な除草剤を使っているのであろうか?

 

(3)「カメムシが田に入るのを防ぐために畦の草刈り・・・」とか、集落の共同作業の日に全員が「草刈り機の刃を研いで準備する・・・」のくだりがある。この作者は草刈りをしたことがあるのだろうか?

畦草刈りは、田んぼの周囲や畦そのものの状態を管理する上で、邪魔になるから刈るのであり、圃場の稲の日当たり風通しを良くする、という目的もある。畦草刈りをやれば害虫が防げるわけではない。また、今の草刈り機はほとんど”チップソー”と呼ばれる刃先がある。安いのでほとんどの人は使い捨てしている。”節約家”の私は専用の研磨機で研ぐが、それでも1回/月程度のこと。田舎暮らしと草刈りは切っても切れない関係にある。もっと丁寧に表現してもらいたいものだ。

 

(4)「1条刈りの稲刈り機、自動的に結束・・・」「コース取りが・・・」「稲刈り機のオイル」、なんのことかと思いきや、これは「バインダー」のことである。確かに機能的には1条毎に刈り稲刈りと、それを束ねる(バインドする)二つの機能を持つ機械であるが、後者の結束機能を重視してか一般にバインダーと呼ばれている機械である。

また、バインダーでの刈取りにコース取りとかあるのだろうか?刈り取った稲は右側に倒していく、したがって刈取りのコースは上から見て反時計回りに、渦巻き状に外から内側に入るしか方法ない。コース取りが重要なのはトラクターでに耕耘と田植機で回る時である。

それから、ここでいう「オイル」とは何か?一般にオイルと言えばエンジンオイルのことを指すのが自動車を含めた動力機業界の常ではないか。ところが、この物語の中ではガソリンの意味で使われている。作者はいわゆる文系の方のようだが、この程度の常識は持ち合わせてもらいたい。

 

(5)「刈り取った稲を干す稲木を畦に立てる・・」「稲刈りしながら干していく・・・」なになに、掛け稲(笠掛け、天日干し)をやっているようだ。だがちょっと待てよ、そのかけ竿を畦に立てるだと。そんなバカな、畦は人一人がようやく歩ける程度の幅しかない。そこに木の杭を打ち、2段積みにするだと。それは無茶というものです。畦が崩れます。私は竹竿を使うが、そうでない人もすべて圃場の中にかけ竿を建てるしかありません。したがってバインダーで稲刈りをする以上、すべて刈取りが終わらないと干せないのです。

 

(6)「半月干して水分が14~15%になったら脱穀作業・・・」これは農協基準ですね。農協に出荷する時の基準が14・5%と決められているのです。15%超過だとアウト、が農協の出荷基準。しかし、自主販売の私の経験値では15%強から16%がベスト。多くの書でも同じようなことが書いてある。こんなに干すから折角の米がまずくなるのですよ。

 

(7)「籾袋27袋、810㎏、軽トラで2回運搬・・・」なにげに書いているが、順法精神が旺盛な私には「何?」となる。軽トラの最大積載量は350㎏です。しめて2回で700㎏しか運べないんですよ。これ重量オーバー、道交法違反ですね。

 

(8)2枚(約1.2反)の「稲わらを1日かけてかき集めて、3日かけて裁断機にかけ・・・」なになに

、裁断機だと。私は”ワラ切り”という手動のギロチンを使い、ひたすら手作業なのだが。裁断機と言うとなんだか動力機があるようですね。あったら私も欲しい。でも”3日かけて”とあるから、たぶん「ワラ切り器」のことを指しているようです。「機」は動力機械に使い、「器」は主に手動の機械に使う漢字ではないだろうか?

 

そんなこんなの突っ込んだ読み方をしている私である。読み終わった後、妻にカクガクシカジカで、と事の次第を講釈すると。妻曰く「いいんじゃない、文学なんだから」「農作業レポートでも、研究書でもないんでしょ」と意に介しないご様子。実に寛容な妻である。小説を”考察”するとか、ヤボなことなのだろうか、やっぱし。

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